あなたは私に町田の豊満おばさまを紹介してくださるらしいが、
そりゃね、私はyou tubeで ミス ハンナ・ミンクスの動画を楽しみに観るくらいだから、
すこぶる豊満な女性は好きな方だし、化粧の濃い原色の女性はとてもタイプなのだけれど、
いま、私が紹介して欲しいのは、しょうじき小松菜の料理法なのですよ。
というのも、そろそろ鍋の季節も終ろうとしている今日この頃、……なのに買ってしまったしゃぶしゃぶのごまだれ。
しかし、冷蔵庫にあるのはしゃぶしゃぶ用の豚肉と野菜は小松菜だけで、果たして小松菜って、
ごまだれに適した食材なのだろうか? という疑問が湧く。
「ああ、困ったな、困った菜……なんだかとっても小松た菜、で小松菜!」ちゅーて遊んでいるわけにもいかず、
さっそく私はスマートフォンを手に取ると、あなたを起こし、ってつまり、
しゃべってコンシェルというアプリを起動させ、本体の左下のちんまい穴に向かいて、
「こぉ まぁ つぅ なぁ のぉ りょ~う~りぃ」
と、事情を知らない他人が見れば、それはまるでアホの子供か、それともあるいはアホの大人か、
どちらにしろアホにしか見えない調子で言ったのに対しての返答が「町田の豊満おばさま」だったのだ。
現在のスマートフォンは音声が主流になっているようで、
たとえばグルグルの音声検索で「こまつなのりょうりほう」と声に出して言えば、うまくいけば一発で、
「小松菜の料理法」と変換され、文字キーや手書き入力の手間を省くことができるのだ。
そうして、ドコモのしゃべってコンシェルというアプリは、それより数段先んじていて、ただ文字変換するだけでなく、
問いかけ(質問や命令)に対しては、思考し、最適な答えを音声と文字で教えてくれるのである。
「こまつなのりょうりほう」と問いかければ、音声と文字で、
『クックパッドで「小松菜」のレシピ情報をお調べします。』と答えて、写真つきのレシピの一覧が表示される。
だのに……『「町田」の「豊満おばさま」を紹介します。』って、どうよ。
とにかく機械に向かって話しかけるのは難しい。妙な感じがする。だからだろうか、
音声検索の初期のCMでは「な かめぐろ ♪ ア~~トギャラリィ~♪」とメロディって話しかけていたりする。
しゃべってコンシェルのCMでは、「ヤッホー!」と話しかけると「こんにちは!」と応えるのだけれど、
私が「ヤッホー!」と話しかけたのに対しては、『「平野」の「本屋」の場所を地図でお調べします』という返事。
後日、再トライしてみても『ここの最寄り駅から「公園」の乗換えをお調べします。』って、
私を何処へ行かせるつもりなのだろうか。
腹が立ったので「アホちゃう!」とののしってやると、「お前よりはましや!」という返事。
いや、これは嘘。実際は、『動画検索で「チャンミン」をお調べします。』だって。
そうして、これも後日、「お前はアホか?」と問いかけると、
「ゴメンなさい。頑張ります。」という返事……。あまりに意外だったので、なんかしんみり……。
しかし、こういった間違いが起こるというのは、やっぱり原因があるわけで、その原因がマシーンの、
音声判読能力の未熟さにあるのであればよいのだけれど、それが人間の方にあるとすれば心配ものである。
「こまつなのりょうり」と訊いて「町田の豊満おばさま」を紹介される私は、そりゃ、確かに声は小さいですよ。
滑舌も悪いかもしれない。けれども、それが原因で誤解されるのならば、まだ救われる。救われないのは、
自分が頭では(小松菜の料理)と思ってしゃべったつもりであっても、実際は、
「ハンナちゃん、大好き! チュッチュ!」などと口走っている、という場合で、もう最悪である。
まあ、そんな最悪なことはないにしても、機械を音声で操作するというのは恐ろしい。
せめて、街中の自動販売機だけは指先で押して買える状態のままであってほしいものである。
でないと、こんなことにもなりかねない……。
月は雲間に隠れたし、雨戸も閉めたしガキも寝た。
「お前さん! 今夜もかい?」
「あったぼうよ!」
「でも、おまえさん! 肝心のアレが……」
まあ、なくてもできそうなものだが、ほんの少しのためらいが命取りとなる。
やっぱり、あった方が安心だ、と夜の街に買いに出る。
もうすでに店じまいした薬局の自動販売機に、まわりに人がいないことを確認してからすばやくコインを投入する。
あとはボタンを押せば下の取出し口へポトンと落ちてくる。ほらね……って、落ちてこない!
そのかわりに突然、自動販売機が「いらっしゃいませ!」としゃべりだした。
ギョッとして、一瞬引き下がるも目を皿にして自販機を見てみると音声対応販売機と書いてある。そうして、
(コンシェルジュがあなたにフィットしたコンドームをお選びします)となっているではないか。
ただただ驚いて立ち尽くしていると、
「それでは、あなたの勃起時のサイズを教えてください?」
「えっ! サ、サイズ、ですか?」
いきなりサイズを訊かれても、すぐに答えきれないのは当たり前だが、男性であればほとんどが、
中学生時には測っている筈である。ほれ、あなたも測ったでしょう、家庭科で使うメジャーで……。
「コンドームはS、M、L、LLの四種類ありますので、センチでお答えください」
「いまは、えーと、たぶん11.5センチくらいかな」
「11.5センチですね……」と言ってから自販機は小刻みに震えた。
その動きが笑っているように見えるのは被害妄想かもしれないけれど、男にはソレは許せない。
「ちくしょう! 笑いやがったな! 機械のくせしやがって」と腹立ち紛れに自販機を拳骨で叩いてやる。
「お客様、止めてください。叩かないでください。私は笑ってなどおりません。モーターです。ああ、
それ以上叩きますと警報のサイレンが鳴り響きますし、同時に警察へも通報されます。
そうして、この中央のレンズから撮られたあなたの映像がyou tubeにアップされます」
まさか、コンドームを買いに来て警察に逮捕されてはかなわない。
それ以上にyou tubeに載ってしまえば、もう永久に削除できない恐れだってある。
「わ、わかった! わかりました。言うとおりにするから、とにかく早くしてくれ!」
まあ、あとは同じように、
コンドームの厚みを超極薄の0.02ミリにするか厚めの0.1ミリにするかは早漏の度合いによって判断され、
塗布されているジェリー状の潤滑剤の量は相手女性の湿潤を問われ、
表面の凹凸加工についてはイボのあるなしを問われ、香りのありなしでは、香りありを希望した場合は、
10種類の花の香りと5種類の蓄獣の香りからの選択をせまられ、色については無色透明以外であれば、
水色、ピンク、レモンイエロー、スカイウォーカー、レインボー……。
とにかくコンドームのコンシェルジュの質問が続くのだけれど、その間に、
向かいのアパートの部屋の電気が付いたり消えたり、近所の飼い犬が吠えたり、近くで野良猫がさかったり、
あるいは背後をアベックがうろちょろしたり、あるいは二、三人のヤンキーがからかっていったり、
自販機に酔っ払いが立小便を引っ掛けたりするのを、なんとかやりすごしながら、
「では、最後にお訊ねします。お相手の女性はゴムアレルギーではございませんか?」
「もちろん、ゴムアレルギーではありません」
「わかりました。では、あなたに最適なコンドームをお選びしますので」と言うや否や自販機は点滅すると、
「お待たせしました。あなたに最適な、
11.5センチSサイズの0.02ミリ極薄タイプ、ゼリーたっぷりイボつき、猫の肉球の香りつきレインボーは、
残念ですが品切れでした。ですので、もう一度最初からお願いします」




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信じられない国